マルチタイムフレーム分析の応用テクニック(上級編)

AI戦略

本記事の対象:MTF分析の基礎(上位足で環境認識→下位足で執行)を理解し、さらに制度化・再現性向上・リスク一貫性の確立を目指す上級トレーダー。

免責事項:本記事は教育目的の一般的情報であり、特定の銘柄・通貨・取引の推奨ではありません。将来の成績を保証するものでもありません。自己責任でご判断ください。

目次

  1. 導入:MTFの本質と「情報過多」の罠
  2. 設計思想:上位足→下位足への「シナリオ伝播」
  3. 相関・逆相関・主従関係の見取り図
  4. ダウ理論×構造認識×MTFの接続
  5. ボラティリティ正規化:ATRを軸にした時間足整合
  6. レジーム判定:トレンド/レンジ/圧縮/拡散の四象限
  7. 実践シナリオ:3つの高期待値テンプレ
  8. リスク管理:多層SL/TPと時間足ハイブリッド決済
  9. 運用実装:裁量・半自動・EAの役割分担
  10. 検証設計:テスト条件・ログ・指標の作り方
  11. 上級者が陥る落とし穴と回避策
  12. まとめ:少数精鋭の時間足で一貫性を担保する
  13. 付録:チェックリスト & よくある質問

1. 導入:MTFの本質と「情報過多」の罠

マルチタイムフレーム分析(MTF)は、異なる時間軸の視点を統合し、「どの方向に、どれくらいの余地があり、どこで否定されるのか」を立体的に把握する技法です。上級レベルでの難しさは、時間足を増やすほど判断が遅れ、矛盾する情報が増え、結局のところ執行がぶれる点にあります。

  • 本質:上位足の文脈(流れ・節目・リスク許容)を、下位足の執行に伝播して整合させること。
  • 罠:月足〜1分足までを漫然と眺める「観光MTF」。意思決定が遅延し、過剰最適化や過度なフィルタリングに陥る。

原則:使う時間足は3〜4つに絞る。役割を明確化し、KPI(勝率・PF・平均RR・最大DDなど)を時間足別に分解して管理する。

2. 設計思想:上位足→下位足への「シナリオ伝播」

上位足は地図、下位足は拡大鏡です。最初に「どこからどこまでが優位性の射程か」を上位足で定義し、その範囲内でのみ下位足の戦術を許容します。

役割分担の例(4レイヤー)

  • 週足:資金フローと主要レジーム(上昇/下降/レンジ)の同定。
  • 日足:節目(高値・安値・中期MA・チャネル)の確定と「余地(上限/下限)」の見積もり。
  • 4時間足:押し目・戻りの波形とトレンド継続/転換の分岐点。
  • 15分/5分:執行の精度(エントリー/分割決済/失効条件)。

否定条件の先置き

上位足で否定ライン(シナリオが無効化される価格帯)を先に決め、下位足では「入る理由」より「入らない理由」を先にチェックする。執行ブレが激減します。

3. 相関・逆相関・主従関係の見取り図

「上位足に従う」は正しい一方で、転換期はしばしば逆相関が生じます。下位足の戻り売り/押し目買いが先行し、上位足の転換を先取りすることがあるためです。

  • 主従関係:週足 > 日足 > 4時間 > 15分/5分。ただし転換初動は下位足から。
  • 整合の基準:上位足の高安更新(ダウ)と、下位足の調整波の深さ(%・ATR倍率)を対比。
  • 逆相関の活用:上位足レンジの上限/下限付近で、下位足の反転サインを拾う短期逆張り。

4. ダウ理論×構造認識×MTFの接続

ダウ理論は「高値安値の切り上げ/切り下げ」によるトレンド定義。MTFでは、上位足のダウ構造を下位足の小波動に分解して、どの波を取りに行くかを明文化します。

実装ポイント

  1. 日足で有効なダウ(直近スイング)を確定。
  2. 4時間足で同方向の中波動が継続しているかを検証。
  3. 15分/5分で「中波動の押し目/戻り」だけを執行対象に限定。

この階層化により、同じ「上昇トレンド」でも、どの部分を狙うのか(推進/調整/転換初動)をブレなく運用できます。

5. ボラティリティ正規化:ATRを軸にした時間足整合

時間足が違えば「同じpips」でも意味が変わります。そこでATRなどでボラを正規化し、上位足と下位足の指標を比較可能にします。

用途指標設定例
損切りATR×k15分:1.2〜1.8 / 4時間:2.5〜3.5
利確第一目標MAE/MFE比×ATRMFE≧SLの1.2〜1.5倍
トレード無効化上位足ATR閾値上位足ATR急縮小時は見送り

コツ:SL/TPを「pips固定」ではなく「時間足ATR倍率」で統一。これにより相場環境の変化に順応しやすくなります。

6. レジーム判定:トレンド/レンジ/圧縮/拡散の四象限

レジーム(相場状態)を見誤るとシグナルは機能しにくくなります。MTFでは、上位足でレジームを先に定義し、下位足の戦術を切り替えます。

  • トレンド×拡散:順張り。押し目/戻りからの推進波狙い。
  • トレンド×圧縮:ブレイク待機。ダマシ回避のためトリガー厳格化。
  • レンジ×圧縮:レンジ下限/上限での逆張り短期回転。
  • レンジ×拡散:上位足レンジ内の中期トレンドに便乗。

7. 実践シナリオ:3つの高期待値テンプレ

シナリオA:王道の押し目買い(順張り)

  1. 日足:高値安値の切り上げ継続、主要MA上。
  2. 4時間:調整下落→中期MA(20/50)やチャネル下限に接触。
  3. 15分:反転サイン(スイング高値更新/包み足/モメンタム回復)。

執行:反転確定で分割エントリー。SL=15分ATR×1.5を基準に直近安値の外側。TP1=4時間の直近戻り高値、TP2=日足レジスタンス。

シナリオB:上位足レンジの端での逆張り(限定的)

  1. 日足:明確なレンジ。上限/下限が長期的に意識。
  2. 1時間:レンジ上限に過熱接近、ダイバージェンス。
  3. 5分:反転の小波動(戻り売り/押し目買い)が顕在化。

執行:上限反転を確認後に短期で逆張り。SLはタイト(5分ATR×1.2)。利確は日足レンジ中央〜対辺まで段階的に。

シナリオC:圧縮→拡散のブレイクフォロー

  1. 日足:ボラ縮小(ATR減少)、三角持ち合い。
  2. 4時間:レンジ内の高値・安値が徐々に切り上げ/切り下げ。
  3. 15分:出来高/モメンタムの拡大でレンジ外へ。

執行:ブレイク足の終値確定後に追随。失速なら即時撤退。
SL=ブレイク起点の内側、TPは日足の次節目まで段階利確。

8. リスク管理:多層SL/TPと時間足ハイブリッド決済

多層ストップの考え方

  • 執行層:下位足の直近スイング外側(ノイズ誤差にATR×0.5〜0.8を上乗せ)。
  • 構造層:4時間/日足の構造否定ライン(スイング否定)。
  • ポートフォリオ層:同時相関ポジの総リスク上限(例:有効証拠金の0.5〜2%)。

時間足ハイブリッド決済

  1. TP1:下位足の直近節目で部分利確(リスク回収)。
  2. TP2:中位足(1H/4H)のターゲットで追加利確。
  3. TP3:上位足(日足)の節目までトレイル。

ブレークイーブン化:TP1到達でSLを建値+αへ。利確後に損切りへ転ぶ損益曲線を減らせます。

9. 運用実装:裁量・半自動・EAの役割分担

上級運用では「裁量判断」と「機械的一貫性」を棲み分けます。

  • 裁量:上位足のレジーム判定、節目の質評価、ニュース/流動性イベントの影響度。
  • 半自動:下位足でのトリガー検出、分割決済/トレーリングの自動化。
  • EA:ルール化できる部分(時間足整合・ATR正規化・失効条件)の再現と記録。

結論としては「上位足=人、下位足=機械」のハイブリッドが、実務上の再現性と柔軟性を両立します。

10. 検証設計:テスト条件・ログ・指標の作り方

最低限のログ

  • 時間足別のエントリー根拠(文章/タグ)。
  • 入出場価格・SL/TP・ATR倍率・RR。
  • MAE/MFE・保有時間・レジーム種別。

評価指標

  • 勝率・PF・平均RR・最大DD・期待値(EV)。
  • 時間足×レジーム別の分解(どこで勝っているか)。
  • 「否定条件ヒット率」:無効化ラインでの撤退精度。

テストの落とし穴

  • 上位足の節目を未来視してしまう「リーク」。
  • 指標直後の異常値をフィルタせずに最適化。
  • 複数時間足のデータずれ(確定足前提の整合性チェック必須)。

11. 上級者が陥る落とし穴と回避策

  • 落とし穴:時間足を増やしすぎる → 回避:役割を3〜4層に限定、否定条件を先置き。
  • 落とし穴:下位足の「綺麗な形」に固執 → 回避:上位足の余地と否定の整合を最優先。
  • 落とし穴:SLが構造外に置けていない → 回避:構造層SLと執行層SLの二重化。
  • 落とし穴:ニュースイベント無視 → 回避:上位足での予定表確認とサイズ縮小。

12. まとめ:少数精鋭の時間足で一貫性を担保する

  • 上位足で「余地」と「否定」を定義し、下位足はその内側だけで戦う。
  • ATRでボラを正規化し、時間足間の指標を比較可能にする。
  • レジームに応じてテンプレ戦術(順張り/逆張り/ブレイク)を切替。
  • 多層SL/TPと分割決済で、損益曲線の凹みをコントロール。
  • 検証では「時間足×レジーム×否定条件」を必ず記録・分解。

13. 付録:チェックリスト & よくある質問

出陣チェックリスト

  • 週足/日足のレジームは定義済みか(上昇/下降/レンジ/圧縮/拡散)。
  • 否定ラインはどこか(価格/時間/イベント)。
  • 4時間の中波動と日足の方向は整合しているか。
  • 下位足トリガーは「上位足内側」でのみ有効化されているか。
  • SL/TPはATR倍率で整合性が取れているか。
  • イベント前後のボラ異常に対するルールはあるか。

よくある質問

Q. 時間足は何個使うのが最適?
A.原則3〜4個。役割が重複したら削る。迷いはコストです。

Q. 下位足だけで完結させたい。
A.可能ですが、上位足の否定ラインがないとシリーズ損失が増えやすい。少なくとも「日足または4時間」の節目は参照を。

Q. 逆相関の初動を取りに行くリスクは?
A.短期の優位性は高い一方、上位足に飲み込まれるリスクが常在。サイズ縮小・時間制限・素早い撤退で制御します。

Q. 最後は何が勝敗を分ける?
A.一貫性。設計した否定条件を守り抜く執行規律と、ボラ正規化に基づくサイズ管理です。

ポリシー配慮:本記事は教育的内容であり、過度な収益主張や具体的な投資助言を避ける表現に努めています。

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